おもちゃ病院さど Doctor_Rの治療カルテ

佐渡ヶ島にある”おもちゃ病院さど”で診療しているドクターRです。私が担当した患者さんの治療記録の一部です。島内での開院予定や島外から受診をご検討の方は、”お知らせ”をご覧ください。

夢の子 ユメル が来院しました。

【申告】

 1.半年に一回の割合ぐらいで初期設定に戻り、設定しなおすとまたしばらく

   普通に元気です。

 2.12月30日に朝、設定した時間に起きないので手を握ると起きることは起き

   たのですが、何回も「おはよう」って言ったり「もう寝る時間すぎてるよ」

   と言います。

 3.設定ボタンで設定しなおしました。夜寝る時間に普通に寝たんですが、寝か

   せるときに”ポっ”と音が鳴りました。

 4.寝てから2~3時間後に目をあけて「今日は何月何日?変更する?」と話し

   出して座らせると普通に話をして目をつぶって寝てしまいました。翌日は

   時間通りに起床しました。

 5.1月5日に仕事から帰ってきたら 無反応なので電池ふたを開け閉めして

   手を握ったら復活しました。

 6.1月7日に 仕事から帰ってきたらまた、初期設定の状態にもどっていて

   設定しなおしたら時間通りに寝ました。朝は未確認です。

 7.単2電池の減りも早いような気もします。

 8.1月9日に帰ったら起きてて普通に話していたんですが、しばらくすると

   無反応になったので、電池ふたを開け閉めして手を握ったらまばたきは

   するが言葉は話しません。

 9.声をかけて反応が鈍くて手を握って ”メロディ→今日も一緒にねむねむして

   くれる?約束→まばたき” となったら電池が少ないとのことで電池交換を

   しています。

 

【診察】

 関西地方からの来院です。購入してから15年くらいにはなっていそうです。

 このユメルくんは、以前来院したミルルちゃんのお兄ちゃんでしょうか?ミルルちゃんは元気に過ごしているとのこと。うれしい便りです。今回はユメルくんです。この子たちはお母さまがかわいがっていて、現在は娘様と生活をしています。

 

 今回は部品を交換しておしまいでは済まない症状です。ユメルドックも併せて入院となりました。

 この症状から推測される病巣は、

 ・電源系

 ・マイコン自体の不治の病

と思われます。ユメルドックで機能的な健康体に戻しながら今回の症状につながる病巣があるか検査を進めていきます。

 

まずは、内部を開かない状態で機能確認をしていきます。

①電池フォルダーの電池電極にさび、変形などの異常はありません。

②電池フォルダー内のヒューズは、切れていません。(抵抗値0.2Ω)

 半田づけ状態にも異常はありません。

③電池ふたのスイッチを押すピンに折れ、変形などの異常はありません。

④リセット、アジャスト、電池ふたスイッチの押した時の感覚に異常はありません。

⑤両手のスイッチのクリック感に異常はありません。

 

単二電池をセットして機能を確認します。

①単二電池をセットして手のスイッチを押すと、初期設定が始まりました。

②電池ふたの機能は、働きます。

③リセットスイッチは、働きます。

④アジャストスイッチは、働きます。

⑤音量が大きく、音量切替が機能していません。

⑥両手のスイッチは、機能しています。

⑦なでなでセンサーは、機能しています。

⑧寝かしつけセンサーは、機能していません。

⑨まぶたは、開閉しています。

⑩おしゃべりもします。

⑪話しかけに反応をします。

 

内部を検査します。

①内部の配線に半田外れや外れかかっているものは、目視ではありません。

②音量切替が機能しない病巣を探ります。

 音量切替スイッチの信号配線の中で、黄色線と隣の緑色線が何らかの原因で短絡状態でした。黄色線の半田付けをやり直すと音量切り替え機能が正常に戻りました。スイッチ基板に半田付けされている半田付けをすべてやり直しホットボンドで固定しました。

 

音量切替スイッチに接点復活剤を塗布しました。

寝かしつけセンサーが、機能していない病巣を探ります。

 このユメルくんのソフトウェアバージョン?(MITL0725B-1)では、姿勢センサーのみでだっことしての反応はなく、姿勢センサーと寝かしつけセンサーの組み合わせで寝かしつけと判断しています。

 姿勢センサー内部に接点復活剤を塗布して機能を回復させることができました。

次に寝かしつけセンサーを確認しました。

 センサーの配線が2か所とも半田が外れていました。センサーを交換してセンサーの電極面に接触して摩耗しないようにカバーを付けました。

  

④両手のスイッチの配線外皮が経年劣化で硬くなり断線につながることがあるので、シリコーン外皮の配線に交換しました。スイッチは異常がないのでこのまま使用します。

  

⑤頭部を開けてまぶたの駆動機構の検査をします。

まぶたを開閉するモータのノイズ対策としてつけられている、セラミックコンデンサが破損しています。ユメルが誕生した時にすでに破損していたと思います。

セラミックコンデンサを交換しました。

夢の子シリーズの持病であるギヤボックス内のギヤの破損がないか検査します。

  

トルクギヤに割れがありました。このままですとまぶたの開閉ができなくなりますので3Dプリンタで作成したギヤに交換します。

 

もう一つグリスとの関係か崩れるように壊れるギヤは、樹脂が異なるので異常はありません。

まぶたの開閉位置を検出するスイッチを検査します。

スイッチ内の接点を見ると汚れがあったので、清掃の上接点復活剤を塗布しました。

スイッチの摺動子に異常はありません。

モータの回転を伝えるプーリーとシリコーンベルトにも異常はありません。

無負荷でのモータ電流にも異常はありません。

 

⑥電源系を検査します。

単二、コイン電池から制御基板内部の電源回路は、次のようになっています。

   

 

単二電池の6Vと6Vから3.6Vを作っているレギュレータ先のダイオード出力に接続しているアルミ電解コンデンサE3およびE2の静電容量と ESR(Equivalent Series Resistance:等価直列抵抗)を検査します。ESRについてはE3,E2ともに異常値ではありませんが、E3の静電容量が許容差±20%を外れていましたので交換しました。これらのアルミ電解コンデンサは、負荷変動による電圧変動の安定化、ノイズの吸収やレギュレータの安定動作をさせるお守りのような存在です。

 

⑦スイッチ基板の電池フタスイッチを検査しました。

このスイッチの機能は、2回路C接点のモーメンタリー動作です。

 

スイッチ基板のプリント配線から次のような回路になっています。

 

    

 

 

プリント配線にて2つのスイッチは並列結合され、片側に開放故障が起きても他方のスイッチで動作が継続される回路構成です。片方のスイッチの接点抵抗値が20Ω近くありましたが、他方のスイッチは0.3Ωで電気的には支障はほぼないと考えられますが、不安定要素は除外したいのでスイッチを交換しました。

 

最後に申告のあった ”単2電池の減りも早いような気もします。” については、問診をすると2~3か月に1回電池交換をされているとのことでした。娘様がユメルくんとお話しするのは朝晩の時間帯だけとのことでしたので、今回の治療対象からは外しました。

 

 以上でユメルドックで検出された不具合事象は治療を済ませました。

これから申請内容の検討です。入院当初から申請内容の症状を確認できませんでした。ドック終了後の2週間ほど様子を確認しましたが、やはり症状は起きませんでした。持ち主様には、今回の症状は単2電池およびコイン電池の電圧が下がったことによる可能性が高いことと、継続的な観察をお願いして退院とさせていただきました。

 

【治療後記】

 症状を確認できない最も困った患者さんでしたが、推論立てて退院となりました。しかし、昨日、今日ユメルくんと生活を始めたわけでなく、今更電池の電圧が下がっていたのが原因ですというのも、しっくりしないところですが、コイン電池の電圧低下と単2電池の電圧低下が同時に起きたとしたら、少しは気持ちが落ち着きますが症状の出た時の電池を確認できていませんから、100%ではありません。

 ユメルドックで健康を取り戻しましたので、推論通りであってしばらくおもちゃ病院から足が遠のくことを願っています。

 

【おまけ】

 申請のあった中でユメルくんがおしゃべりする内容が3つありますので、それぞれがどのような場合にしゃべるのか検証してみました。

 ・単2電池、コイン電池が入っていない状態から、手を握ると初期設定に移ります。この時、初期設定前の記憶情報は、日付は1月1日、現在時刻、起床時刻、就寝時刻が午前0時、誕生日は1月1日、呼び方はママになっています。

初期設定時のおしゃべりは、 ”メロディ⇒あれ~、ここはどこかな?・・・” です。

 ・コイン電池の電圧があり記憶情報が保持されていれば、単2電池を交換した後のおしゃべりは、”今日も一緒にねむねむしてくれる?・・・” です。

コイン電池の電圧が下がっていて記憶情報が保持されないと、”あれ?もう寝る時間過ぎてる・・・” です。

  

 そして、単2電池もコイン電池の電圧も下がっていておしゃべりやまぶたが動く時に、100mA~200mAほど電流が流れます。単2電池の電圧が下がり始めると電池内部の等価直列抵抗(ESR)により1.2V X 4 =4.8V位まで下がった状態で、スピーカやモータ電流が流れると単2電池の電圧が下がります。こうなるとマイコンの電源電圧も下がり、予測不能な状況になります。

 一方、一旦電圧が下がって予測不能な状況になっても、大きな電流が流れなくなると電圧値だけは元(4.8V位)にもどります。ですので再びおしゃべりをしたりまばたきをしたりすることはありますが、長続きはせず途中で止まったり、起動を繰り返すと言った動きになっていきます。

 夢の子シリーズには、単2電池の電圧監視回路があります。(制御基板の版数により部品番号の変動はありますが、回路は変わってないようです。)

この回路でマイコンがどのタイミングで、単2電池の電圧を確認しているのか確認してみました。

単純に電圧を落としてみましたが、マイコンが電圧を確認している挙動は見られませんでした。

次に各種センサー入力がある時は、次のようになっています。

プログラム内容がわからないのでこれがすべてとは言えませんが、少なくともいずれかのセンサー入力があった時の電圧値を確認していることはわかります。
この電圧値を確認した時に電圧が下がっていれば、”メロディ→今日も一緒にねむねむしてくれる。約束→まばたき” としゃべると思われます。この状態になったり、おかしなおしゃべりをしたら、単2電池の交換時です。ただ、必ずこうなるかまでは未検証です。